転職後の基本給が同じでも、残業代が減った結果、制度上の「賃金日額」が離職前より低くなれば、就業促進定着手当の対象になることがあります。「基本給を下げられた人だけ」の制度ではありません。
ただし、再就職手当を受けていることと、その再就職先の同じ事業主に雇用保険の被保険者として6か月以上雇用されていることが前提です。給与明細1枚の手取り額や、残業代の減少額だけでは受給できるか決まりません。
まずは自分が次のどれに当たるかを確認してください。そのうえで、賃金に含める手当、計算に使う6か月、申請用の給与明細をそろえます。
| 転職後に変わったこと | 判断のポイント |
|---|---|
| 基本給は同じで、残業代が減った | 対象になり得る。諸手当を含む賃金日額で比較する |
| 残業代は減ったが、通勤手当などが増えた | 合計で差がなくなれば、賃金低下の条件を満たさない場合がある |
| 総支給額は同じで、税・社会保険料の控除が増えた | 手取りの減少だけでは対象にならない |
| 夏冬のボーナスだけ減った | 3か月を超える期間ごとの賞与は比較対象から除くため、それだけでは対象にならない |
| 再就職手当を受けていない | 就業促進定着手当だけを単独で受けることはできない |
制度の条件・計算対象:厚生労働省「就業促進定着手当のご案内」。以下は2026年9月6日に確認した情報です。
まだ再就職手当を受けるか迷っている段階なら、先に再就職手当と失業手当の残日数の関係を確認してください。

残業代は賃金に含む。基本給と手取りだけで比べない
給与明細では「差引支給額」や銀行への振込額ではなく、税金・社会保険料を引く前の賃金を確認します。基本給に加え、対象となる残業代や各種手当を合わせて比較するためです。
| 給与明細の項目 | 賃金への算入 | 確認すること |
|---|---|---|
| 基本給・残業手当 | 含む | 固定給が同じでも、残業手当の増減を反映する |
| 通勤手当・皆勤手当など | 含む | 通勤手当は数か月分の一括支給も確認する |
| 夏冬の賞与など | 3か月を超える期間ごとの支給は除く | 「賞与」という名前だけで判断せず、支給間隔も見る |
| 臨時に支払われる賃金 | 原則として除く | 通常の月々の手当と区別する |
| 税・社会保険料の控除 | 差し引かない | 手取り額に置き換えない |
残業手当を含む賃金範囲は、福岡労働局支給申請書の記入例・2ページ目に明記されています。通勤手当・控除前の額・賞与の扱いは、厚生労働省の現行リーフレットでも確認できます。
例1:基本給24万円は同じで、残業代6万円がなくなった
離職前は「基本給24万円+残業代6万円=月30万円」、転職後は「基本給24万円+残業代0円=月24万円」という例です。ほかの手当はなく、それぞれ対象の6か月間、同じ金額が続いたものとします。
この場合は、基本給が変わっていなくても比較する賃金が下がっています。次の章のように日額へ換算し、他の受給条件と支給上限を確認するケースです。
例2:残業代が3万円減り、通勤手当が3万円増えた
離職前は「基本給24万円+残業代3万円+通勤手当1万円=月28万円」、転職後は「基本給24万円+残業代0円+通勤手当4万円=月28万円」とします。
同じ月給制で、それぞれ6か月の対象賃金が同額なら、残業代がなくなった分を通勤手当の増加が埋めています。通勤に使える分が増えただけで生活費は苦しく感じても、通勤手当を除いて賃金低下を判定することはできません。
例3:給与の総額は変わらず、振込額だけ下がった
控除前の対象賃金が変わらず、住民税や社会保険料などの控除が増えた場合は、手取りが減ってもこの制度の賃金低下には当たりません。まず明細の「支給」と「控除」を分けて、どちらが変わったのか確認しましょう。
いくらもらえる?6か月の賃金比較と支給上限を計算する
就業促進定着手当は、減った給与を毎月補填する制度ではありません。6か月分の賃金から差額を計算し、上限の範囲内で支給する手当です。
離職前の「賃金日額」と、再就職後の「みなし賃金日額」を比べる
離職前の賃金日額は、雇用保険受給資格者証の1面・14欄に記載されています。失業手当1日分の「基本手当日額」とは別なので、取り違えないようにしてください。
月給制の場合、再就職後のみなし賃金日額の基本的な計算は「対象となる6か月の賃金合計÷180」です。例1の給与を当てはめると、次のようになります。
| 比較する金額 | 計算例 |
|---|---|
| 離職前の賃金日額 | 30万円×6か月÷180=10,000円 受給資格者証でも10,000円と確認できるケース |
| 再就職後のみなし賃金日額 | 24万円×6か月÷180=8,000円 |
| 日額の差 | 10,000円−8,000円=2,000円 |
| 上限を適用する前の手当額 | 2,000円×賃金支払基礎日数184日=368,000円 |
この例は完全月給制で、対象期間の賃金支払基礎日数が184日と確認できた場合です。日額を出すときの「180」と、手当額に掛ける日数は同じとは限りません。完全月給制では暦の日数、日給月給制では賃金の支払いの基礎となった日数などを使います。
日給・時給制では、単に180で割って終わりにはできません。「賃金合計÷180」と「賃金合計÷賃金支払基礎日数×70%」の高い方を使う計算があります。月給から時給へ変わった人は、勤務日数も含めて確認してください。
離職前・再就職後の賃金日額には年齢別の上限と共通の下限もあります。上限を超える高い給与から少し下がった場合などは、実際の給与が減っても、制度上の日額に差が出ないことがあります。
日額・賃金支払基礎日数の根拠:厚生労働省就業促進定着手当のご案内・1ページ目。
計算上36万8,000円でも、そのまま全額もらえるとは限らない
2025年4月1日以降に再就職した人の上限は、「再就職手当の計算で使う基本手当日額×再就職手当を受ける前の支給残日数×20%」です。給与の減少額に20%を掛けるわけではありません。
例1について、離職時40歳、基本手当日額6,307円、再就職手当の支給前の残日数90日とします。日額6,307円は、賃金日額1万円を2026年8月1日適用の計算式に当てはめた額で、60歳未満の再就職手当の日額上限6,745円を下回ります。
上限は6,307円×90日×20%=113,526円です。賃金差から計算した368,000円の方が大きいので、この条件での就業促進定着手当は113,526円となります。残業代が6か月で36万円減っても、その全額が戻る計算ではありません。
これは現行の基準で条件を固定した試算です。自分の計算では、受給資格者証の額・適用時点の上限・実際の支給残日数を使います。2025年3月31日以前の再就職には異なる上限率が適用されるため、古い説明の30%・40%と混ぜないようにしてください。
根拠:厚生労働省雇用保険業務取扱要領57264、基本手当日額の計算式及び金額、現行の就業促進定着手当リーフレット。
同じ会社で6か月以上が前提。途中退職・雇用保険の喪失に注意
再就職手当を受けた会社で働き始めてから、同じ事業主に雇用保険の被保険者として6か月以上雇用されている必要があります。別の会社で働いた期間をつなげて6か月にすることはできません。
6か月になる前に雇用保険の被保険者資格を失った場合は、雇用契約自体が続いていても条件を満たしません。会社都合の出向などでも、資格の喪失を伴う場合があるため確認が必要です。事業を始めて再就職手当を受けた場合も、就業促進定着手当の対象にはなりません。
一方、6か月以上の継続雇用の条件を満たした後に辞めた場合は、申請時に退職済みというだけで対象外にはなりません。必要な賃金期間の証明ができるかも含め、申請先で確認してください。
根拠:厚生労働省雇用保険業務取扱要領57262、ハローワーク平塚就業促進定着手当についての案内。
再就職先を辞める場合は、定着手当だけでなく、再就職手当の返還や失業保険の残日数も気になるところです。退職後の扱いは次の記事で確認できます。

給与明細は6枚で足りる?締日と残業代の翌月払いを確認する
「6か月働いた」と「給与明細を6枚持っている」は、同じ意味ではありません。賃金の比較には、給与の締日で区切った完全な賃金月が6か月分必要です。さらに、残業代だけ翌月払いなら、最後の月の残業代が載る明細も確認します。
月の途中入社や、入社日と給与締日の区切りが合わない場合
4月1日入社でも、月末締めと15日締めでは資料の対象期間が変わります。ハローワーク浜松は次の例を示しています。
| 4月1日入社の例 | 賃金台帳・出勤簿で必要な期間 |
|---|---|
| 月末締め | 4月1日〜9月30日 |
| 毎月15日締め | 4月1日〜10月15日 最初の半月分に加え、4月16日〜10月15日の完全な6か月分が必要 |
2つ目の例で、初回の半月分を「1か月分」として6枚だけ集計すると、必要な期間が足りません。入社日・締日・各明細の対象期間を並べて確認してください。
基本給は当月払い、残業代だけ翌月払いの場合
4月1日入社、月末締めで、基本給は当月25日払い、残業代だけ翌月25日払いとします。この場合、9月に働いた残業代は10月の給与明細に載ります。
浜松のチェックリストでは、このケースは給与明細・賃金台帳が4月分〜10月分、出勤簿が4月1日〜9月30日分と案内されています。平塚の案内でも、残業手当等が翌月支給なら7か月目の賃金台帳が必要とされています。
ただし、7枚の総支給額をそのまま合計するという意味ではありません。10月の明細は、9月の残業代を確認するためにも必要な資料です。対象期間に対応する基本給・残業代を会社に証明してもらい、翌月分の基本給まで丸ごと足す二重計上を避けます。
書類期間の例:ハローワーク浜松「就業促進定着手当申請チェックリスト」2ページ目、ハローワーク平塚残業手当の翌月支給に関する案内。自分の給与体系で必要な資料は提出先へ確認してください。
会社に用意してもらう書類と、申請期限
申請期間は原則として、再就職から6か月経過した日の翌日から2か月間です。例えば4月1日から継続雇用された場合は、原則10月1日〜11月30日が申請期間になります。
給与明細が7か月分必要だからといって、申請期間の起点も自動的に1か月後へずれるわけではありません。給与の支払日や会社の書類作成を待つ必要があるときは、期限が来る前に提出先へ相談してください。
- 支給申請書を確認する:再就職手当の支給決定通知と一緒に届いた就業促進定着手当の申請書を探す。手元になければハローワークへ問い合わせる。
- 会社へ記入と資料を依頼する:事業主の証明欄の記入、対象期間の賃金台帳または給与明細の写し、出勤簿またはタイムカードの写しを依頼する。
- 給与の期間を突き合わせる:入社日、締日、残業代の支払月、通勤手当の一括支給を確認する。申請書の期間と添付資料を一致させる。
- 受給資格者証などと一緒に提出する:原則は再就職手当を申請したハローワークへ。住所変更などがある場合は提出先を確認する。郵送を使う場合も、必要書類・送付方法を確認する。
マイナンバーカードで受給資格を確認する方式の人は、受給資格通知など、提出方法に応じた書類を確認してください。会社への依頼では「基本給と残業代の支払月が違うので、最後の対象月の残業代まで確認できる資料をお願いします」と伝えると、必要な明細を整理しやすくなります。
手続きの根拠:厚生労働省就業促進定着手当の申請手続、雇用保険業務取扱要領57265。書類が期限に間に合わない見込みのときの相談は、浜松のチェックリストでも案内されています。
残業の少ない働き方を続けるなら、給付後の収入も考える
残業が減った分の収入を、この手当でずっと補えるわけではありません。受給できる見込み額を確認したら、基本給を中心とした毎月の収入で生活費を見直すことも必要です。
空いた時間で仕事に役立つ技能を身につけたい場合は、在職中に利用できる職業訓練や夜間・土日の学習も選択肢です。受講は定着手当の条件ではありません。今の仕事を続けながら学べるか、時間・費用・目的を確認してから検討してください。

まず確認するのは、再就職手当の受給、同じ事業主での6か月以上の雇用、残業代や通勤手当を含む賃金日額の低下です。基本給が同じという理由だけで諦めず、受給資格者証と給与明細をそろえ、支給上限と申請期間を確認しましょう。

