社会保険料を軽くする「保険料調整制度」は、対象の会社が申し出て、一定の条件を満たす短時間労働者の本人負担を減らす制度です。2026年10月1日以降に新たに任意特定適用事業所になる会社などから対象になります。
ただし、パート全員の保険料が自動的に下がるわけではありません。本人の標準報酬月額が12万6,000円以下であることなどが必要です。また、軽減は会社の制度利用開始から3年間で、途中から対象になった人がそこから丸3年間使える仕組みではありません。
この記事では「勤務先は対象か」「自分はいくら軽くなるか」「3年後はどうなるか」を順番に確認します。社会保険に入る条件と、加入後の負担を軽くする条件を分けて考えましょう。
制度情報の確認日:2026年9月7日。開始前の制度を含みます。届書様式・詳しい手続きは日本年金機構の今後の案内も確認してください。
1.勤務先はいつ対象になる?会社の加入状況で分かれる
最初に確認するのは、自分の給料よりも勤務先の状況です。日本年金機構が案内している対象時期は次のとおりです。
| 対象になり得る時期 | 勤務先の条件 |
|---|---|
| 2026年10月1日以降 | この日以降に新たに任意特定適用事業所になる |
| 2027年10月1日以降 | 適用拡大により新たに対象になる、厚生年金の被保険者数36~50人の事業所 |
| 2029年10月1日以降 | 同じく、被保険者数21~35人の事業所 |
| 2032年10月1日以降 | 同じく、被保険者数11~20人の事業所 |
| 2035年10月1日以降 | 同じく、被保険者数10人以下の事業所 |
表の人数は、パートを含む全従業員を単純に数えた人数ではなく、厚生年金の被保険者数です。会社の規模だけで判断せず、給与担当者に適用状況を確認してください。
「任意特定適用事業所」とは、短時間労働者への加入拡大が義務になる規模に達していなくても、被保険者の同意をもとに会社が申し出て、短時間労働者にも社会保険を適用する事業所です。2026年9月30日以前から任意特定適用事業所だった会社は、この枠では保険料調整制度の対象外とされています。
つまり、既に社会保険に入っているパートが、2026年10月に一斉に軽減を受ける制度ではありません。「加入対象を広げること」と「保険料の負担を調整すること」には別々の条件があります。
出典:日本年金機構「保険料調整制度のご案内」「任意特定適用事業所」
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2.本人の条件は「短時間労働者」と「標準報酬月額12万6,000円以下」
会社が制度を利用していることに加えて、本人が次の両方を満たす必要があります。
- 短時間労働者として健康保険・厚生年金保険に加入している
- 標準報酬月額が12万6,000円以下である
ここでいう短時間労働者は、社会保険上の区分です。「パート」という雇用形態の呼び名だけでは決まりません。給与が低い正社員や、国民健康保険に入っている自営業者が、そのまま対象になる制度ではありません。
12万6,000円は、その月の手取り額ではない
標準報酬月額は、税引き前の給与を一定の幅に分けて決める、社会保険料の計算用の金額です。基本給だけでなく、通勤手当や残業手当なども報酬に含まれます。
たとえば、判定に使う報酬月額が12万8,000円なら、対応する標準報酬月額は12万6,000円です。「給与が12万6,000円を超えたから対象外」とは限りません。一方、報酬月額が13万円になると、標準報酬月額12万6,000円の範囲から外れます。
ただし、今月の給与が増えたからといって、標準報酬月額が毎月そのまま変わるわけではありません。定時決定や随時改定などで決まるため、給与明細や会社の通知に記載された現在の標準報酬月額を確認するのが先です。記載がなければ給与担当者に聞きましょう。
この「月13万円未満」という報酬区分と、健康保険の扶養で話題になる「年収130万円」は別の基準です。数字が似ていても置き換えて判断しないでください。
出典:日本年金機構「保険料調整制度の対象者・負担割合」「厚生年金保険の保険料・標準報酬月額」
3.いくら軽くなる?本人の負担割合と厚生年金の計算例
軽減幅は一律ではありません。標準報酬月額が低い区分ほど本人負担が小さくなり、3年目には軽減幅が縮小します。
次の表は、会社と本人を合わせた保険料全体のうち、本人が負担する割合です。「本人25%」は、通常の本人負担50%の半分になるという意味です。給料の25%を払うという意味ではありません。
| 標準報酬月額 | 対応する報酬月額 | 1~2年目 本人の割合 |
3年目 本人の割合 |
|---|---|---|---|
| 8万8,000円以下 | 9万3,000円未満 | 25% | 37.5% |
| 9万8,000円 | 9万3,000円以上~10万1,000円未満 | 30% | 40% |
| 10万4,000円 | 10万1,000円以上~10万7,000円未満 | 36% | 43% |
| 11万円 | 10万7,000円以上~11万4,000円未満 | 41% | 45.5% |
| 11万8,000円 | 11万4,000円以上~12万2,000円未満 | 45% | 47.5% |
| 12万6,000円 | 12万2,000円以上~13万円未満 | 48% | 49% |
残りの割合は会社が負担します。会社が一時的に上乗せした分は後から調整され、最終的に会社が納める保険料は増えない仕組みと案内されています。また、この軽減を受けたことによって将来の年金額が減ることはありません。
出典:日本年金機構「保険料調整制度の概要・負担割合」
標準報酬月額8万8,000円なら、厚生年金は月4,026円軽減
金額の違いをつかむため、厚生年金部分だけで計算します。厚生年金の保険料率は18.3%なので、標準報酬月額8万8,000円の場合、会社と本人を合わせた月額は「8万8,000円×18.3%=1万6,104円」です。
通常の本人負担はその50%の8,052円。制度の1~2年目は25%の4,026円となり、厚生年金だけで月4,026円軽くなる計算です。3年目は37.5%の6,039円となります。
| 標準報酬月額 | 1~2年目の 本人負担 |
3年目の 本人負担 |
軽減なし・終了後の 本人負担 |
|---|---|---|---|
| 8万8,000円 | 4,026円 | 6,039円 | 8,052円 |
| 11万円 | 約8,253円 | 約9,159円 | 1万65円 |
| 12万6,000円 | 約1万1,068円 | 約1万1,298円 | 1万1,529円 |
上表は厚生年金の本人負担月額だけの試算です。標準報酬月額と保険料率が変わらない前提で、端数は概算として四捨五入しています。健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金・雇用保険・税金は含めていません。給与から差し引かれる総額とは異なります。
同じ制度でも、標準報酬月額12万6,000円の人は、1~2年目の厚生年金の軽減が月約461円です。「最大で半分」という説明だけを見て、自分も同じ金額だけ手取りが増えると考えないことが大切です。
計算根拠:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」の18.3%と、上記制度の本人負担割合から計算。
働き方を見直すために学び直しも考えているなら、保険料の軽減と受講費用の支援を別々に見積もりましょう。学費を補う教育訓練給付金と、訓練中の生活を支える職業訓練受講給付金では、対象者も役割も異なります。

4.「3年間」は会社の利用開始から。途中入社なら短くなる
保険料の軽減は、事業所が制度を使い始めてから3年が経過すると終了します。本人が入社した日や、初めて軽減を受けた日から3年間ではありません。
たとえば、会社が2026年10月に利用を開始し、2029年9月まで制度を使うケースを考えます。
- Aさん:2026年10月から対象なら、最初の2年間は1~2年目の割合、2028年10月からの1年間は3年目の割合になります。
- Bさん:2027年10月に入社して対象になった場合、会社の2年目からの利用です。1年間は1~2年目の割合、その後の1年間は3年目の割合となり、軽減期間は合計2年間です。
いずれも標準報酬月額などの条件を満たし続ける前提です。AさんもBさんも、この会社での軽減は2029年9月で終わります。
また、3年目に半分になるのは「軽減される分」です。本人が払う額は増えます。標準報酬月額8万8,000円の厚生年金なら、4,026円→6,039円→終了後8,052円という順番です。
出典:日本年金機構「対象となる被保険者が負担する保険料のイメージ」に基づく事例。
5.政策としての利点と課題は、加入直後と支援終了後にある
この制度は、社会保険への加入で新たに生じる本人負担を、一時的に小さくする設計です。保障を得ながら働き続けるための移行支援として考えると、役割が分かりやすくなります。
ここからは制度の設計を踏まえた筆者の見方です。利点は、軽減を受けても将来の年金額が減らず、加入直後の手取りへの影響を抑えられることです。特に低い報酬区分では、家計への助けになります。
一方で、支援が届くかどうかは本人の収入だけでは決まりません。会社が対象になる時期、任意適用を始めた時期、会社の申出、会社の制度利用が何年目かによって結果が変わります。似た働き方でも軽減の有無や期間に差が出る点は、制度を評価するうえで確認したい部分です。
さらに、3年間の軽減は恒久的な手取り増ではありません。政策の効果を見るには、利用者数に加えて、軽減幅が小さくなる3年目や終了後にも働き続けやすくなったかを確かめる必要があると考えます。現時点で、その効果が実証されたとは断定できません。
6.会社に確認する順番と、申出期限の注意点
この制度は、本人が個人で申し込むだけで受けられるものではありません。会社が対象となった日から2年以内に、事業主が申し出る必要があります。自分の入社から2年以内という意味ではありません。
任意特定適用事業所になるための申出と、保険料調整制度を利用するための申出も分けて確認します。会社が社会保険の加入対象を広げたことだけで、軽減まで始まったとは判断できません。
給与担当者には、次の順番で聞くと、自分の負担を見積もりやすくなります。
- 会社は対象になるか:どの適用拡大に該当し、いつから対象になる予定か。
- 会社は制度を利用するか:申出を行う予定があるか。利用開始月と終了月はいつか。
- 自分は対象か:短時間労働者としての加入区分と、現在の標準報酬月額はいくらか。
- 給与明細にはいつ反映されるか:軽減中、3年目、終了後の本人負担をそれぞれ確認できるか。
2026年9月7日に確認した日本年金機構の案内では、届書様式と手続きの詳細は今後掲載予定です。まだ公表されていない申請書名や受付方法を前提に進めず、会社と年金事務所で最新の案内を確認してください。
出典:日本年金機構「保険料調整制度・手続き」
そのうえで、収入を増やすための資格取得や、離職を含む働き方の変更を考える場合は、訓練中に使える支援も確認できます。給付を受けるために先に退職を決めるのではなく、現在の就業状況に合う制度と受講条件を確認してから生活費を組み立てましょう。


