結論からいうと、定年再雇用で給料が下がったのに社会保険料が同じでもすぐに会社のミスとは判断できません。
健康保険料・厚生年金保険料は毎月の実際の給料そのものではなく、会社から届け出た報酬をもとに決まる標準報酬月額を基礎に計算されるからです。
ただし60歳以上の人が退職後1日の空白もなく同じ会社へ継続再雇用されたときは通常の降給とは別の取扱いがあります。
会社が被保険者資格喪失届と資格取得届を提出することで再雇用された月から再雇用後の給与に応じた標準報酬月額へ決め直すことが可能です。
それでも最初の給与明細の保険料が以前と同じならまず次の3点を会社へ確認してください。
- 退職後継続再雇用として資格喪失届と資格取得届を提出したか
- 再雇用後の標準報酬月額はいくらで何月分から適用されているか
- 今回の給与明細で控除している社会保険料は何月分か
| 給与が下がったのに保険料が同じ主な理由 | 確認すること |
|---|---|
| 再雇用後も以前の標準報酬月額が使われている | 資格喪失・取得の届出をしたか |
| 最初の給与から前月分の保険料を控除している | 給与明細の保険料が何月分か |
| 再雇用後の報酬も同じ標準報酬月額の等級に入った | 新しい標準報酬月額 |
| 基本給は下がったが通勤手当などを含む報酬は思ったほど下がっていない | 標準報酬月額の算定に入った手当 |
| 退職・再雇用の取扱いをせず一般の随時改定で処理する | 月額変更届の対象か、改定予定月はいつか |
日本年金機構は60歳以上の退職後継続再雇用について事業主が資格喪失届と資格取得届を同時に提出することで、再雇用月から新しい給与に応じた標準報酬月額に決定できると案内しています。
公式:日本年金機構「60歳以上の厚生年金の被保険者が退職し、継続して再雇用される場合、どのような手続きが必要ですか。」
社会保険料は下がった給料へそのまま連動するわけではない
給与明細を見ると「総支給額がこれだけ下がったのだから健康保険料と厚生年金保険料も同じ月から下がるはず」と考えやすくなります。
しかし毎月の保険料は標準報酬月額を使って計算します。
標準報酬月額は実際の報酬月額を一定の幅で区分した金額です。
そのため給料が下がっても標準報酬月額が変わらなければ毎月の保険料も基本的には変わりません。
また標準報酬月額の対象は基本給だけではありません。
日本年金機構は基本給のほか残業手当や通勤手当なども報酬に含むと案内しています。
たとえば定年再雇用で基本給が大きく下がっても通勤手当、家族手当、住宅手当などを含めた報酬全体で標準報酬月額を確認する必要があります。
通勤手当まで社会保険料の計算に入る理由を詳しく確認したい人は次の記事で整理しています。

60歳以上の定年再雇用なら通常の3か月を待たず見直せる取扱いがある
一般の会社員が降給されたときは給料が下がっただけでその月から標準報酬月額が変わるわけではありません。
一定の条件を満たすと随時改定が行われ、変更後の固定的賃金が初めて支払われた月から数えて4か月目の標準報酬月額から改定されます。
一方で60歳以上の人がいったん退職し、翌日に同じ会社へ継続再雇用されるケースには別の取扱いがあります。
日本年金機構は使用関係がいったん中断したものとみなし、事業主が資格喪失届と資格取得届を提出する取扱いが可能としています。
この手続きを使えば再雇用月から再雇用後の給与をもとに標準報酬月額を決定できます。
一般の随時改定のように降給後3か月の報酬を見て4か月目まで待つ取扱いとは違います。
この取扱いは実務上「同日得喪」と呼ばれることがあります。
ただし60歳になっただけで自動的に保険料が再計算される制度ではありません。
会社側の届出が必要です。
公式:日本年金機構「60歳以上の方を、退職後1日の間もなく再雇用したとき」
「定年後も同じ会社で働いている」だけでは判断できない
重要なのは年齢だけでなく実際に退職と再雇用が行われているかです。
日本年金機構の案内によると、退職後継続再雇用の取扱いには退職したことと継続再雇用されたことを確認できる書類が必要です。
具体的には退職日を確認できる就業規則・退職辞令などと再雇用後の雇用契約書、または退職日と再雇用日を記載した事業主の証明書などが使われます。
したがって勤務先も仕事内容も同じだからといってすべての契約変更にこの取扱いを使えるとは限りません。
単に給与条件が変わっただけなのか、いったん退職して継続再雇用されたのかを分けて考えます。
最初の給与明細が旧保険料でも「届出漏れ」とは限らない
会社が退職後継続再雇用の届出をしていても再雇用後の最初の給与明細だけを見ると以前と同じ保険料が控除されていることがあります。
理由の1つが社会保険料の控除対象月です。
日本年金機構は事業主が当月支払う給料から前月の標準報酬月額にかかる保険料を差し引くことができると案内しています。
前月分を翌月給与から控除している会社では再雇用月の給与明細に退職前の月の保険料が載ることがあります。
たとえば次のようなケースです。
| 時点 | 状況 | 給与明細で見える可能性があるもの |
|---|---|---|
| 3月31日 | 定年退職 | 3月分までは退職前の標準報酬月額 |
| 4月1日 | 継続再雇用。資格喪失・取得の届出を行う | 4月分から再雇用後の標準報酬月額を決定できる |
| 4月給与 | 前月分を控除する会社の例 | 3月分の旧保険料が控除されることがある |
| 5月給与 | 前月分を控除する会社の例 | 4月分の新しい標準報酬月額による保険料が反映される |
この例では4月の給与明細だけを見て「再雇用後も保険料が下がっていない」と判断すると1か月ずれて見ていることになります。
会社によって給与の締め日・支払日や控除処理が異なるため明細の保険料が何月分なのかを給与担当へ聞くのが早いです。
資格喪失・取得をしていないなら一般の随時改定を確認する
会社が60歳以上の退職後継続再雇用の取扱いをしていない場合やそもそも実際の退職・継続再雇用ではなく通常の賃金変更だった場合は一般の随時改定が関係します。
随時改定は主に次の3条件をすべて満たすと行われます。
- 昇給・降給などで固定的賃金に変動がある
- 変動後3か月の報酬平均から求めた標準報酬月額と従前の標準報酬月額に2等級以上の差がある
- 変動後3か月の各月で所定の支払基礎日数を満たす
条件を満たすと変更後の固定的賃金を初めて受けた月から4か月目の標準報酬月額から改定されます。
たとえば4月に固定給が下がり4月から6月までが判定対象になるなら随時改定に該当した場合は7月分から新しい標準報酬月額になります。
さらに前月分の保険料を翌月給与から控除する会社なら給与明細で新しい保険料が見えるのはその次の給与になることがあります。
給料が下がった一般的なケースで「3か月判定」と「4か月目」を詳しく確認したい人は次の記事を参考にしてください。

再雇用後に決め直しても保険料が同じことはある
資格喪失・取得の届出が正しく行われ、新しい給与で標準報酬月額を決め直したのに保険料が以前と同じになるケースもあります。
給料が下がっても同じ標準報酬月額の範囲に入った
標準報酬月額は実際の給料1円単位をそのまま使う仕組みではありません。
報酬月額を一定の幅で区分し、該当する標準報酬月額を決めます。
そのため再雇用後の報酬が下がっていても退職前と再雇用後が同じ等級に入れば毎月の保険料は同じになることがあります。
基本給だけを比べている
再雇用契約で基本給が下がっていても標準報酬月額の対象となる報酬は基本給だけではありません。
通勤手当など経常的に支給される各種手当も含めて確認します。
「基本給はかなり下がったのに保険料がほとんど変わらない」というときは退職前と再雇用後の総支給額ではなく標準報酬の対象となる報酬を会社へ確認すると原因を切り分けやすくなります。
会社へ確認する5項目
給与担当や人事へ「社会保険料が高いのですが」とだけ聞くより、次の5項目をまとめて確認した方が早く原因を特定できます。
- 定年退職日と継続再雇用日は何日として処理されているか
- 60歳以上の退職後継続再雇用として資格喪失届・資格取得届を提出したか
- 再雇用後の標準報酬月額はいくらか
- 新しい標準報酬月額は何月分から適用されているか
- 今回の給与明細で控除している健康保険料・厚生年金保険料は何月分か
会社が資格喪失・取得の取扱いをしていないなら追加で「一般の随時改定の対象になるか」「月額変更届を出す予定なら何月分から改定されるか」を聞きます。
問い合わせは次の程度で十分です。
定年退職後の継続再雇用で給与額が変更されています。
健康保険・厚生年金について、退職後継続再雇用として資格喪失届と資格取得届を提出しているか確認したいです。
あわせて再雇用後の標準報酬月額、適用月、今回の給与明細で控除している保険料の対象月を教えてください。
これらが分かれば「手続き済みだが前月分を見ている」「新しい標準報酬月額も同じ等級だった」「一般の随時改定を待っている」といった違いを判断できます。
本人が年金事務所へ月額変更届を出す手続きではない
標準報酬月額を変えたいからといって本人が給与明細を持って自由に保険料額を変更できるわけではありません。
退職後継続再雇用の資格喪失・取得も一般の月額変更届も基本的には事業主が手続きを行います。
まず会社へ届出状況と標準報酬月額を確認してください。
会社の説明と実際の退職日・再雇用日・給与条件が合わない場合は年金事務所へ自分のケースを相談できます。
再雇用後に社会保険の加入条件を満たさなくなった場合は別の問題
ここまでの説明は再雇用後も健康保険・厚生年金保険の加入対象として働くケースが前提です。
再雇用後に勤務日数や労働時間などの契約条件が大きく変わり、社会保険の加入条件自体を満たすか分からない場合は標準報酬月額の見直しより先に資格の有無を確認する必要があります。
「保険料を下げるために加入を外してもらう」という話ではありません。
再雇用後の契約内容から会社が適用要件を確認し、必要な届出を行う問題です。
再雇用後の給料が下がった人は年金・給付も別に確認する
定年後の継続雇用では社会保険料だけでなく再雇用後の賃金と高年齢雇用継続給付、在職中の年金との関係が気になる人もいます。
これは標準報酬月額の見直しとは別の制度です。

給料低下後の高年齢雇用継続給付と年金の関係を確認したい人は次の記事で整理しています。

よくある質問
60歳以上で定年再雇用されたら会社は必ず資格喪失・取得をするのですか?
日本年金機構は60歳以上の退職後継続再雇用について資格喪失届と資格取得届を提出する取扱いが可能と案内しています。
自動で適用されるものとして考えず、自分の会社がどの手続きで処理したかを確認してください。
再雇用後の最初の給与明細で保険料が同じなら手続き漏れですか?
最初の給与明細だけでは判断できません。
前月分の社会保険料を翌月給与から控除している会社では再雇用後最初の給与に退職前の標準報酬月額による保険料が載ることがあります。
何月分の保険料を控除しているか確認してください。
給料が1等級分下がったら随時改定されますか?
一般の随時改定は固定的賃金の変動だけでなく変動後3か月の平均から求めた標準報酬月額と従前の標準報酬月額に原則2等級以上の差があることなど複数の条件があります。
一方、60歳以上の退職後継続再雇用で資格喪失・取得を行う取扱いは一般の随時改定とは別です。
基本給が下がったのに標準報酬月額が同じになることはありますか?
あります。
標準報酬月額の対象には基本給だけでなく通勤手当なども含まれます。
また報酬は一定の幅で等級化されるため再雇用後の報酬が下がっても同じ標準報酬月額の等級に入ることがあります。
会社が同日得喪をしていない場合はどうすればいいですか?
まず会社へ退職後継続再雇用の資格喪失・取得を行っていない理由と現在の標準報酬月額を確認してください。
継続加入のまま一般の随時改定で処理するなら月額変更届の対象かと改定予定月を確認します。
個別の届出が適切か判断できない場合は年金事務所へ退職日・再雇用日・新しい雇用契約を伝えて相談します。
まとめ
定年再雇用で給料が下がったのに社会保険料が同じときは給与額だけでなく標準報酬月額と保険料の対象月を確認します。
60歳以上で退職後1日の空白もなく同じ会社へ継続再雇用された人は会社が資格喪失届と資格取得届を提出することで、再雇用月から再雇用後の給与に応じた標準報酬月額へ決め直せる取扱いがあります。
一般の随時改定のように必ず3か月を待つ取扱いではありません。
一方で前月分の保険料を翌月給与から控除する会社では最初の給与明細に旧保険料が載ることがあります。
再決定後の報酬が同じ標準報酬月額の等級に入れば給料が下がっても保険料が同じになることもあります。
会社へは「資格喪失・取得の届出をしたか」「再雇用後の標準報酬月額」「適用月」「給与明細の保険料が何月分か」を確認してください。
この4点をそろえると単なる反映時期の問題か、一般の随時改定を待っているのか、標準報酬月額自体が変わっていないのかを切り分けられます。


