在宅勤務中にトイレへ行こうとして転倒した場合、自宅で起きたという理由だけで労災の対象外になるわけではありません。勤務中のトイレへの移動は業務に伴う行為として労災の対象になり得ます。
判断のポイントは「勤務時間内だったか」だけでなく、何のために席を離れ、どの行動中にけがをしたかです。同じ自宅の廊下での転倒でも、トイレへ向かう場合と洗濯物を取り込む場合では整理が変わります。
この記事では会社に雇用されて在宅勤務をしている人を対象に、トイレ・家事・宅配受取の違いと事故後に残す記録、会社への報告方法を整理します。
在宅勤務中のトイレへの移動は労災の対象になり得る
労災では仕事とけがとの関係を確認します。自宅での勤務にも労災保険は適用されるため「会社の外で起きた事故だから使えない」という説明は正確ではありません。
トイレなどの生理的な行為は業務に伴う行為として扱われます。勤務中に通常の経路でトイレへ向かっていた状況なら、単なる私生活上の事故と決めつけず会社や労働基準監督署に相談してください。富山労働局「業務災害・複数業務要因災害・通勤災害・第三者行為災害」
公式の認定例は「トイレから戻って椅子に座る際の転倒」
厚生労働省のテレワークガイドラインには、勤務時間中のパソコン作業を中断してトイレへ行き、作業場所に戻って着席する際に転倒した事例が載っています。仕事に伴う行動が原因であり、私的行為によるものではないとして業務災害と認められる例です。厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」労働災害の補償
この事例はトイレへ向かう途中の転倒すべてを一律に認定するものではありません。ただしトイレのための離席を仕事と無関係な私用として一律に除外しないことが分かります。実際の事故では勤務状況や移動の目的、転倒原因などを確認して判断されます。
トイレ・家事・宅配受取の違いを比較
テレワーク総合ポータルは勤務時間中であっても、洗濯物の取り込みや個人宛の郵便物の受取りといった私的行為が原因のけがは業務上の災害にならないと説明しています。テレワーク総合ポータル「テレワーク中の災害は、労災保険を適用できますか。」
次の表は判断の考え方を比べるためのものです。個別の認定結果を保証する表ではありません。
| 転倒した場面 | 考え方 | 確認・記録すること |
|---|---|---|
| 仕事を中断してトイレへ向かう途中 | 業務に伴う行為として対象になり得る | 直前の業務、離席時刻、移動経路、転倒原因 |
| トイレから戻り仕事用の椅子に座る際 | 公式ガイドラインに業務災害と認められる例がある | 勤務中の離席から着席までの経過 |
| 洗濯物を取り込むために移動中 | 家事という私的行為が原因なら対象外 | 家事を始めた時刻と実際にしていたこと |
| 自分の買い物で届いた宅配便を受け取る途中 | 個人宛の郵便物と同様に私的行為として考える場面 | 荷物の用途、離席目的、事故が起きた場所 |
| 会社の指示で業務用機器などを受け取る途中 | 私物の受取りとは分けて業務との関係を確認する | 受取りの指示、荷物の内容、業務上必要だった事情 |
| トイレへ行く途中で家事にも立ち寄った | 行動が混在するため一律には判断できない | どこで何をしていた瞬間に転倒したか |
「パソコンをつけたままだった」「勤務終了の打刻前だった」という事情だけでは家事中の事故が労災に変わるわけではありません。一方で宅配便という名称だけを理由にすべて対象外と決めるのも適切ではありません。業務用の荷物については仕事上の指示や必要性を伝えて個別に確認します。
家事が混じった場合は転倒までの順番をそのまま伝える
たとえば「トイレへ行こうとしたが洗濯機の前で洗濯物を取り出し、その際に転倒した」場合と「トイレへ直行する途中で転倒した」場合は同じ説明にはできません。
私用が途中に入ったなら、その内容と終了後の行動も記録してください。仕事に戻る途中だったのか、まだ私用を続けていたのかが確認事項になります。「最初の目的はトイレだった」という一言にまとめず、実際の動きを時系列で書くことが大切です。
転倒後は受診と会社への連絡を優先する
事故の直後は身体の状態に応じて受診など必要な対応を優先してください。会社の返事や労災の判断を待って受診を遅らせる必要はありません。
- 医療機関に在宅勤務中のけがであることと事故の経緯を伝える
- 上司や人事に発生時刻・場所・けがの状況を連絡する
- 無理のない範囲で現場の写真や勤務記録を残す
- 会社の担当者と労災保険の請求手続きを確認する
労災によるけがの治療には原則として健康保険を使いません。労災に当たるか確認中の場合も「自宅で転んだ」とだけ伝えず、勤務中だったことを医療機関に説明して取扱いを相談しましょう。
すでに健康保険を使った場合は労災を請求できなくなるわけではありません。まず受診先に切替えが可能か確認し、必要に応じて加入先の健康保険と労働基準監督署に相談します。領収書などは保管してください。厚生労働省「誤って健康保険で病院にかかってしまった場合の手続き」
会社への報告に必要な記録は「勤務・移動・転倒」の3つ
在宅勤務では同僚が現場を見ていないことがあります。事故の説明は当日の勤務記録と照らし合わせられる形で残しましょう。厚生労働省のガイドラインも労働時間の記録の保存と災害発生状況の記録を重視しています。
| 記録する項目 | 具体的に書く内容 | 補足できる資料の例 |
|---|---|---|
| 当日の勤務 | 始業時刻、予定していた休憩、直前に行っていた業務 | 勤怠記録、業務チャット、会議予定、作業履歴 |
| 離席と移動 | 離席時刻、目的、作業場所から事故場所までの動き | 簡単な見取図、移動経路のメモ |
| 転倒の状況 | 段差につまずいた、床で滑ったなど分かる範囲の原因 | 段差・床・椅子などの写真 |
| けがと対応 | 痛む部位、受診先、会社へ連絡した時刻、業務を続けられるか | 受診記録、領収書、連絡の履歴 |
| 私用の有無 | 家事や荷物の受取りに立ち寄ったか、その前後の行動 | 自分のメモ、受取りの指示や配達記録 |
写真を撮るために危険な場所へ戻ったり、転倒した動作を再現したりする必要はありません。原因が分からないときは「床で滑ったと思う」などの推測と確認できた事実を分けます。
目撃者や写真がないからといって相談を諦めず、分かる範囲の時刻と行動を記録してください。逆に記録があるだけで自動的に労災と認められるわけでもありません。労働基準監督署が事情を調べて判断します。
在宅勤務中の転倒を会社へ報告するメール例文
次の文面は勤務中にトイレへ直行する途中で転倒した架空の例です。時刻や転倒原因、私用の有無は実際の状況に置き換えてください。
件名:在宅勤務中の転倒の報告と労災手続きの確認
○○課長・人事ご担当者様
本日10時20分ごろ、在宅勤務中に自宅の作業机からトイレへ移動する途中で廊下の段差につまずき、転倒しました。右手首に痛みがあるため受診を予定しています。
本日は9時から勤務し、事故直前まで資料作成を行っていました。トイレのために離席したもので、途中で家事や荷物の受取りはしていません。
事故場所と段差の写真、当日の勤務記録を残しています。受診後に結果と業務への影響を報告します。
労災保険の請求について相談したいため、担当窓口と必要な書類をご案内いただけますでしょうか。追加で記録すべき事項があればお知らせください。
家事や宅配受取をしていた場合はその行動を省略せず記載します。業務用の荷物なら「○○さんの指示で会社貸与の機器を受け取るため離席した」といった事実を加えてください。報告文では認定の結論を自分で決めるより、判断に必要な情報をそろえます。
「自宅の事故だから労災ではない」と会社に言われたら
労災保険の給付を判断するのは会社ではなく労働基準監督署です。会社への報告と労災保険の請求は別の手続きなので、報告メールを送っただけで請求まで済んだとは考えないでください。
まず人事や労務担当者に勤務中のトイレへの移動だったことを説明し、会社が対象外と考える理由を確認します。それでも認識が合わない場合は勤務先の事業場を管轄する労働基準監督署へ事故の経緯を伝えて相談しましょう。
会社が請求書の事業主証明に協力しない場合でも請求は可能です。証明を得られない事情を監督署へ説明してください。会社の同意がないことと労災の対象にならないことは同じではありません。厚生労働省「事業主証明が得られない場合の労災保険請求」
療養補償給付は受診先が労災指定医療機関かどうかで提出先や手続きが異なります。会社の担当者と受診先に確認し、必要な請求書を提出します。厚生労働省「労働災害が発生したとき」
在宅勤務中に転倒したときは「家の中だから対象外」「勤務時間内だから必ず対象」と決めず、直前の仕事から離席、転倒までの流れを記録することが出発点です。トイレへの移動と私的な家事・荷物の受取りを分けて説明し、会社と労働基準監督署に確認してください。
制度確認日:2026年9月25日。個別の労災認定は事故の具体的な状況に基づいて判断されます。


