副業先でけがをして働けなくなったとき「労災の給付は副業の少ない給料だけで計算されるのか」と不安になるかもしれません。
本業と副業の2社に雇用されている人は、原則として両方の賃金を基に労災保険の給付額を算定します。事故が起きていない本業の賃金も対象です。
ただし「合算できること」と「休んだ日に休業給付を受けられること」は別の確認が必要です。本業で勤務を続けている日や片方の会社から賃金が出る日は扱いが変わります。
この記事では2社分を合算する仕組みと計算例を示し、本業・副業それぞれに用意してもらう資料まで整理します。
副業の労災でも本業の賃金を合算するのが原則
事業主が異なる複数の会社と同時に労働契約を結んでいる人を「複数事業労働者」といいます。たとえば本業は会社員で副業は飲食店のアルバイトという働き方です。
副業の店で作業中に転倒して労災と認められた場合も、休業補償給付などの算定では本業の賃金を含めます。「けがをしたのは副業だから副業分だけ」とは限りません。
この仕組みは2020年9月1日以降に発生した傷病等が対象です。厚生労働省のアルバイト中の事故に関するQ&Aでも、他社で就業している場合はその賃金を合算して給付基礎日額を算定すると説明されています。
副業の呼び方より雇用関係を確認する
| 働き方 | 合算を考えるときの確認点 |
|---|---|
| 本業は正社員・副業はアルバイト | 2社との雇用関係があれば両方の賃金が算定対象になる |
| パートを2社で掛け持ち | 本業という呼び方がなくても複数就業として確認する |
| 会社員と業務委託の仕事 | 業務委託の売上・報酬がそのまま賃金として合算されるわけではない |
| 会社員と労災保険の特別加入をしている仕事 | 特別加入の対象業務と加入状況を確認する。特別加入側は選択した給付基礎日額が計算に関わる |
業務委託か雇用かは契約書の名称だけでは決まらない場合もあります。判断に迷うときは契約書と実際の働き方が分かる資料を労働基準監督署へ持参してください。
2社の仕事が原因でなければ合算できないわけではない
「2社分の賃金を合算する制度」と「2社の仕事の負担を合わせて労災を判断する制度」は分けて考えます。
副業先だけで起きた作業中の事故でも賃金の合算は対象になります。一方の会社だけでは労災と認められない脳・心臓疾患や精神障害などについて、複数の仕事の負荷を総合評価するのが「複数業務要因災害」の仕組みです。
休業給付はいくら?2社分を合算した計算例
休業(補償)等給付の算定に使う日額を「給付基礎日額」といいます。複数就業の場合は各社について算定した給付基礎日額に相当する額を合算するのが基本です。
各社の賃金は原則として事故前3か月を基に確認します。賃金締切日があれば直前の締切日を基準にするため、2社の対象期間が一致しないこともあります。手取り月収を足して30日で割る計算とは異なります。
時給・日給制の最低保障や算定期間から除く期間などの調整もあるため、給与明細だけで金額を確定させず会社ごとの賃金資料をそろえます。
合算した日額が1万2,000円なら1日9,600円が基本
次の例は本業分の日額が1万円、副業分が2,000円と算定されたケースです。両方の仕事ができず両社から賃金を受けない日で、待期3日を終えた後の支給対象日を想定しています。最低・最高限度額などの調整はないものとします。
| 計算するもの | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 合算した給付基礎日額 | 本業1万円+副業2,000円 | 1万2,000円 |
| 休業(補償)等給付 | 1万2,000円×60% | 1日7,200円 |
| 休業特別支給金 | 1万2,000円×20% | 1日2,400円 |
| 上記2つの合計 | 7,200円+2,400円 | 1日9,600円 |
この条件の支給対象日が10日なら合計9万6,000円です。休業開始からの10日すべてに支給されるという意味ではありません。
「労災は80%」と説明されるのは原則として給付の60%と休業特別支給金の20%を合わせたものです。現在の手取り給与の80%がそのまま振り込まれるわけではありません。
治療費まで2社分に増えるわけではない
賃金の合算は休業給付のほか、障害や遺族への給付など給付基礎日額を使う給付にも関わります。一方で療養に関する給付は必要な治療を受けるためのものです。勤務先が2社あるから治療費相当額を二重に受け取れる仕組みではありません。
本業で働いている日・有給を使った日はどうなる?
副業を休んだだけで必ず2社分の80%が支給されるわけではありません。休業給付には療養のため働けないことと賃金を受けないことなどの要件があります。
| その日の状況 | 休業給付の考え方 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 療養のため両社で働けず両社とも無給 | 待期を終えた日について合算した日額を基に算定するのが基本 | 医師の証明・両社の休業期間と賃金の記録 |
| 副業は休んだが本業では通常どおり勤務 | 原則として「労働できない」に当たらず支給対象にならない | 本業の勤務実績・副業を休んだ理由 |
| 本業では勤務し、副業の勤務時間に通院して休業 | 通院のため働けない場合などは支給対象になり得る。個別の確認が必要 | 通院日時・両社の勤務時間・受けた賃金 |
| 両社で働けないが本業は有給・副業は無給 | 副業側が要件を満たせば支給対象になり得る。支払われた賃金に応じて給付額を調整する | 有給の賃金額・副業の無給休業の記録 |
有給などで受けた賃金を控除する際は各社の平均賃金相当額を上限とする取扱いがあります。片方の会社から給与が出たから全額不支給とも、満額支給とも決めつけられません。
相談時は「本業には出勤した」「通院で副業を休んだ」「本業だけ有給にした」を分けて伝えてください。受けた賃金も申告し、その日ごとの支給要件と計算を確認します。
最初の3日間は会社の休業補償と分けて確認する
労災保険の休業給付は待期3日を終えた後が対象です。副業の業務中の事故による休業なら、最初の3日間については事故が起きた会社による労働基準法上の休業補償を確認します。
業務災害の休業補償は平均賃金の60%以上が基準です。労災保険で2社の賃金を合算する話と混同せず、会社に算定に使った平均賃金と補償対象日を確認してください。
通勤災害や複数業務要因災害では、この待期中の会社の補償責任を定めた法令上の規定はありません。会社独自の補償があるかは別途確認します。
待期の数え方や土日・有給の扱いは次の記事で整理しています。
本業の賃金を計算に入れてもらうための申請手順
1.最初の相談で2社に勤めていることを伝える
副業先だけで手続きを進めず「ほかにも雇用されている会社がある」と担当者と労働基準監督署に伝えます。本業の情報が不足していると合算に必要な確認を進められません。
副業先の業務災害なら提出先は原則としてその事業場を管轄する労働基準監督署です。本業・副業の会社名と所在地に加え、それぞれの雇用期間が分かるものを準備してください。
2.両社の賃金・休業資料をそろえる
- 両社の給与明細・賃金台帳など賃金の内訳が分かる資料
- 両社の賃金締切日と雇用開始日が分かる資料
- 出勤簿・シフト表など勤務状況を確認できる資料
- 休業した日と有給を使った日、支払われた賃金を整理したメモ
- 事故の日時・場所・作業内容と受診先をまとめたメモ
業務災害の休業補償給付では様式第8号を使います。複数就業の場合は「その他就業先の有無」の記入に加え、他の事業場についての別紙3と各事業場の平均賃金算定内訳である別紙1などを準備します。必要書類は監督署で確認してください。
事故が起きた副業先には事故や休業の事実、本業には本業側の賃金や休業状況の確認を依頼します。本業にも事故の責任を認めてもらう手続きという意味ではありません。
3.本業へ資料・証明を依頼する文例
件名:労災保険の請求に伴う賃金・休業状況の確認依頼
人事ご担当者様
○月○日に副業先の業務中に負傷し、現在治療を受けています。労災保険の休業補償給付の請求にあたり、複数就業先の賃金と休業状況を確認する必要があります。
当社分の賃金資料と所定様式への証明についてご相談したくご連絡しました。対象期間と必要な様式は労働基準監督署に確認のうえお送りします。
当社での欠勤・有給・勤務の状況は別途一覧にして提出します。手続きの窓口となるご担当者をお知らせいただけますでしょうか。
文例は実際の状況に合わせて直してください。まだ休業していない場合や本業で勤務を続けている場合も事実どおりに伝えます。
4.会社が証明してくれないときは監督署へ相談する
会社の協力が得られない場合も請求を諦めず、どの会社のどの資料がそろわないかを監督署へ伝えてください。手元の給与明細や依頼したメールを残しておくと経緯を説明できます。
事業主証明を断られた場合の進め方は次の記事で詳しく整理しています。
合算する賃金と休んだ日の状況をセットで確認しよう
本業と副業の2社に雇用されているなら、副業先の事故でも本業の賃金を含めて給付額を算定するのが原則です。
申請前には両社の賃金資料と日ごとの勤務・休業状況をそろえましょう。本業で働いた日や有給を使った日を区別することが、支給対象と金額を確認するうえで大切です。
参考資料
- 厚生労働省「アルバイト中、自転車で配達の途中に事故で骨折。労災は適用されますか?」:他社の賃金の合算と業務災害の補償
- 厚生労働省「副業・兼業と労働条件」:複数就業者の労災保険と複数業務要因災害
- 厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説」:対象者・給付の種類・請求書類と記載例
- 厚生労働省「複数事業労働者に係る給付基礎日額の算定について」:会社ごとの算定と特別加入者の取扱い
- 厚生労働省「複数事業労働者の休業(補償)等給付に係る部分算定日等の取扱いについて」:一部の就業先で勤務した日・有給を使った日の要件と計算
- 厚生労働省「休業(補償)等給付について」:休業給付の算定・請求手続き
※2026年9月25日時点で公表されている資料を基に作成しています。




