「定期的に通院したいけれど、毎回休みを頼みにくい」「治療中だけ勤務時間を短くできないだろうか」。仕事を続けたい人にとって、病気そのものと同じくらい気になるのが、会社との調整です。
2026年4月1日から、治療と仕事の両立支援に取り組むことが事業主の努力義務になりました。会社には、相談に対応できる体制を整え、治療を受けながら働くために必要な調整・配慮を進めることが求められます。
ただし、希望した短時間勤務や在宅勤務、有給の病気休暇が、申請すれば必ず認められる制度ではありません。この記事では、2026年9月25日時点の厚生労働省の資料をもとに、相談できる内容と、会社・主治医との話の進め方を整理します。
2026年4月から何が変わった?会社が両立支援に取り組む努力義務
改正労働施策総合推進法により、治療と就業の両立支援が法律上の努力義務として位置づけられました。厚生労働省は、企業規模を問わず、すべての事業主に向けて対応を案内しています。
具体的には、相談先を分かるようにすること、申出後の対応手順を決めること、休暇や勤務制度を整えることなどです。個別の相談では、医師の意見と本人の希望を踏まえ、働き方を検討します。
| よくある疑問 | 押さえておきたいこと |
|---|---|
| 小さい会社でも関係ある? | 企業規模だけで対象外にはなりません。 |
| 正社員だけの制度? | 指針は雇用形態を問わず、すべての労働者を対象にしています。 |
| 希望した勤務方法を会社は必ず認める? | 特定の方法が自動的に認められるわけではなく、業務や治療の状況に応じて検討します。 |
| 新しい給付金や有給休暇ができた? | 今回の努力義務化だけで、一律の給付金や有給の通院休暇が付与されるわけではありません。 |
なお、努力義務だからといって、会社の健康確保に関する既存の義務までなくなるわけではありません。新しい両立支援の枠組みと、労働安全衛生法などに基づく対応は分けて考える必要があります。
がんの治療だけでなく、継続的な治療と勤務上の配慮が必要な場合が対象
指針は、医師が繰り返し・継続して治療する必要があると判断し、働き続けるために配慮が必要な病気やけがを対象としています。がんだけに限定された制度ではありません。
「病名が対象一覧にあるか」だけで判断するより、通院の頻度、仕事への影響、必要な配慮を主治医と整理しましょう。単に通院しているという理由で、すべての人に同じ勤務調整が必要になるわけでもありません。
通院・勤務時間・仕事内容は何を相談できる?
相談の出発点は、今の働き方のどこが治療の妨げになるのかです。以下は、会社と検討する際の例です。実施を保証するものではなく、必要性や実現できる方法を話し合う材料として使ってください。
| 困っていること | 相談する調整の例 | 一緒に伝えること |
|---|---|---|
| 平日の日中に通院が必要 | 休暇の利用、シフトや担当日の調整 | 月に何回、何時から何時まで空ける必要があるか |
| 朝の通勤が体の負担になる | 時差出勤、業務上可能なら在宅勤務 | 出勤時間をずらすと何が改善するか |
| 治療中は通常の勤務時間が難しい | 一定期間の短時間勤務 | 主治医の意見、希望期間、見直しの時期 |
| 残業・出張・一部の作業が難しい | 残業や出張の制限、担当業務の変更 | 避けたい作業と、続けられる作業 |
| 勤務中にも休息や服薬の時間が必要 | 休憩の取り方、休憩場所の調整 | 必要なタイミングや頻度 |
たとえば「通院があるので配慮してください」だけでは、会社は勤務表をどう変えればよいか判断しにくくなります。「当面3か月、隔週火曜日の午後に通院が必要です。予約時間と移動を含めて13時以降を空けられる方法を相談したいです」と伝えると、検討する内容が明確になります。
時間単位の有給休暇や病気休暇は、会社の制度を確認する
時間単位の年次有給休暇は、労使協定がある場合に年5日分の範囲内で利用できる仕組みです。すべての職場で当然に使えるわけではありません。
また、年休とは別の傷病休暇・病気休暇は、会社が独自に設ける休暇です。利用条件や有給・無給の扱いは会社ごとに異なります。制度名だけで判断せず、「自分が使えるか」「何日・何時間までか」「給与はどうなるか」を確認してください。
希望する制度がなければ、まず実現したいことを伝えましょう。「時間休の制度を使いたい」だけでなく、「通院のためこの時間を確保したい」と話すと、休暇以外の勤務調整も検討しやすくなります。
会社への相談から主治医との連携までの進め方
両立支援は、基本的に本人から会社への申出で始まります。社内の相談窓口が分からなければ、人事・総務、上司、産業医や保健師などに、担当窓口と必要な手続きを確認します。
- 会社へ相談する:働き続けたい意向、困っていること、調整が必要になる時期を伝える。
- 仕事の情報を主治医へ渡す:勤務時間、作業内容、通勤方法、会社で利用できる制度を整理する。
- 主治医の意見を会社へ提出する:就業継続の可否や必要な配慮について、会社指定の様式などで伝える。
- 勤務方法を話し合う:会社が主治医・産業医等の意見を踏まえ、本人と話し合って対応を決める。
- 実施後に見直す:治療の経過や仕事への影響を確認し、必要に応じて調整する。
主治医には「仕事内容」まで伝える
「仕事はできますか」とだけ聞いても、主治医が実際の勤務状況を知らなければ、具体的な意見を出しにくくなります。会社と一緒に勤務情報提供書などを作り、仕事の実態を共有することが役立ちます。
次のようなメモを用意すると、診察時に説明しやすくなります。
- 通常は9時~18時勤務で、月末は残業が多い。
- 午前中は立ち仕事が中心で、午後は座って行う事務作業がある。
- 通勤は電車で片道50分、朝は座れないことが多い。
- 会社には時差出勤制度があるが、在宅勤務は担当業務によって異なる。
これは説明用の例です。自分の勤務に置き換え、どの作業や時間帯に配慮が必要か、どれくらいの期間が目安かを主治医に相談してください。書類を依頼する前に、会社に必要な様式と提出先を確認すると、取り直しを減らせます。
産業医がいない会社でも相談を始められる
産業医等がいない場合には、会社は主治医から提供された情報を参考に検討します。「産業医がいないので何もできない」と考える必要はありません。社外の支援機関を利用する方法もあります。
また、医師の意見書を出せば、それだけで希望の勤務方法が確定するわけではありません。会社が具体的な業務との関係を確認し、本人と十分に話し合うことが大切です。
そのまま使える会社への相談文例
最初の連絡は、病状を細かく説明しきることより、相談の目的と面談の希望を伝えると整理しやすくなります。以下は記事用に作成した文例です。
件名:治療と仕事の両立に関する相談
現在、継続的な治療と通院が必要となっています。今後も勤務を続けたいと考えており、通院時間と勤務方法について相談の機会をいただきたく、ご連絡しました。
現時点では、○月から月○回、○曜日の○時~○時に通院が必要となる見込みです。利用できる休暇や勤務時間の調整について、人事ご担当者を交えて相談できればと思います。
業務上必要な配慮については、主治医にも確認します。必要な書式と提出先をご案内いただけますでしょうか。
病状などの情報は、取扱担当者と共有範囲を確認したうえでお伝えしたいと考えています。○日までに面談日程をご相談できましたら幸いです。
通院予定がまだ確定していなければ、「頻度は次回の診察で確認予定です」と書けば構いません。調整が必要になる時期が近い場合は、次の受診日と勤務表が決まる日も伝えましょう。
相談後は、決まった事項を短いメールで確認しておくと、認識の違いを防ぎやすくなります。「○月末まで火曜日は17時退勤とし、○月○日の面談で継続の要否を確認する、という理解でよいでしょうか」のように、期間と見直し日を入れるのがポイントです。
病名は誰まで伝える?給与はどうなる?開始前の確認事項
健康情報の提出先と共有範囲を決める
両立支援には健康に関する情報が必要ですが、同僚全員へ詳しい病状を知らせることと、必要な担当者へ情報を提出することは別です。
指針では、健康診断で把握する場合などを除き、会社が本人の同意なく健康情報を取得しないことや、情報を扱う人の範囲を含めた適切な管理が求められています。主治医へ追加の情報を確認する場合も、本人の同意を前提に進めます。
最初に「意見書は誰が受け取るか」「直属の上司には何を伝えるか」「同僚には勤務変更だけを説明できるか」を相談しましょう。ただし、安全に仕事を続けられるかの判断に必要な情報まで、すべて省けるとは限りません。伝える内容と目的を担当者に確認してください。
勤務時間の変更と給与の扱いはセットで確認する
「短時間勤務が認められたので、給与もこれまでどおり」とは限りません。勤務調整を始める前に、条件を確認しておきましょう。
| 確認項目 | 質問例 |
|---|---|
| 休暇中の給与 | 今回の通院は年休、会社独自の休暇、欠勤のどれになりますか。 |
| 短時間勤務中の処遇 | 基本給・手当・賞与の扱いはどうなりますか。見込額を確認できますか。 |
| 実施期間 | いつからいつまでの調整ですか。延長や通常勤務への変更は誰に相談しますか。 |
| 急な体調変化 | 当日の欠勤・早退が必要になった場合、誰へどの方法で連絡しますか。 |
| 休職が必要になった場合 | 利用できる期間、申請書類、復職の手順、休職中の支払いを教えてください。 |
休職中の生活費を考えるときは、給与だけでなく、社会保険料の支払いも確認が必要です。給料が出ない期間の扱いは、次の記事で整理しています。

会社との調整が進まないときの相談先
上司だけでは判断できない場合は、人事・総務や産業保健の担当者を交えた相談につなげましょう。「制度がない」と言われたときも、どの対応が難しいのか、別の勤務方法なら検討できるのかを確認すると、次に相談すべき点が分かります。
社外では、都道府県の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)が、両立支援の相談や、会社と労働者の間の調整、支援プランの作成支援などを行っています。利用方法は地域のセンターに確認してください。
通院先の患者相談窓口や医療ソーシャルワーカーに、「治療を続けながら今の会社で働くための相談をしたい」と伝える方法もあります。両立支援コーディネーターは情報整理や関係者との連携を支援しますが、本人の代理人として会社と交渉する役割ではありません。
なお、治療と仕事の両立は、必要な休養を避けて働き続けることを意味しません。休業が必要な場合は、治療に専念する期間と、復帰までの手順を相談します。
うつ病などの精神疾患で休職していて、今の職場へ戻る準備をしたい人は、地域障害者職業センターのリワーク支援も選択肢になります。利用条件や会社・主治医との調整は、次の記事で確認できます。

まずは「続けたい働き方」と「治療に必要な時間」を伝える
最初の相談までに、すべての書類や希望条件を完成させる必要はありません。働き続けたい意向、今困っていること、調整が必要になる時期の3点をメモにして、会社の窓口を確認しましょう。
そのうえで、仕事の情報を主治医へ伝え、必要な配慮を会社と具体化します。決定した勤務方法、給与の扱い、情報の共有範囲、見直し日まで確認しておくと、治療の状況が変わったときにも相談を続けやすくなります。
参考資料
制度・指針は2026年9月25日時点で確認しています。勤務調整の例と相談文は、資料を踏まえて本記事で作成したものです。
- 厚生労働省「病気を抱える労働者の治療と就業の両立支援が努力義務になります!」:2026年4月1日の施行、事業主の取組と支援の流れ。
- 厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」概要:対象となる労働者・疾病と対応の全体像。
- 厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号):健康情報の保護、医師の意見、本人との話合い、健康確保に関する留意事項。
- 治療と仕事の両立支援ナビ「労働者(患者)の方へ」:会社への申出、相談窓口、本人が進める手順。
- 治療と仕事の両立支援ナビ「事業主の方へ」:勤務情報提供書・主治医意見書、支援プラン、休業・復帰時の対応。
- 治療と仕事の両立支援ナビ「治療と就業の両立支援に関する制度、体制等の整備」:時間単位年休、病気休暇、時差出勤、短時間勤務等の位置づけ。
- 治療と仕事の両立支援ナビ「相談可能な支援機関・支援人材」:医療機関、産業保健総合支援センター、両立支援コーディネーターの役割。


