結論からいうと、傷病手当金と老齢年金の扱いは「健康保険の資格を失う前か後か」で変わります。
会社の健康保険に加入したまま休職している在職中は老齢年金を受けていること自体を理由に傷病手当金が減る調整はありません。
一方で退職して健康保険の資格を失った後に傷病手当金の継続給付を受ける場合は老齢または退職を事由とする公的年金との調整があります。
退職後は「年金も傷病手当金も満額で受け取れる」とは限りません。
年金の日額が傷病手当金の日額より低ければ差額が支給され、年金の日額が傷病手当金以上なら重なる期間の傷病手当金は支給されません。
| 状態 | 老齢年金による傷病手当金の調整 | 確認すること |
|---|---|---|
| 健康保険の資格がある在職中 | この調整はなし | 給与など別の支給調整がないか確認 |
| 退職後の資格喪失後継続給付 | あり | 傷病手当金日額と対象年金の年額を確認 |
| 退職後に任意継続へ加入 | 任意継続への加入だけで新しい傷病手当金は発生しない | 在職中からの継続給付要件を満たすか確認 |
協会けんぽ高知支部も老齢年金との関係について「在職中で健康保険の資格を失っていない場合」と「退職後の資格喪失後」を分けて案内しています。
在職中なら老齢年金を理由に傷病手当金は減らない
老齢年金を受けながら会社で働いている人が病気やけがで休職した場合は健康保険の資格が続いている期間について老齢年金を理由とする傷病手当金の調整はありません。
「年金を受け始めたから傷病手当金もその分だけ減る」と考える必要はありません。
ただし在職中なら傷病手当金が必ず満額になるという意味ではありません。
休んだ日に給与や手当が支払われている場合はその支給額との調整が行われることがあります。
老齢年金との調整がないことと、給与など他の支給調整がないことは別です。
協会けんぽは傷病手当金の通常要件として、業務外の病気やけがで療養していること、労務不能であること、待期を含め一定日数休んでいること、給与の支払いがないことなどを案内しています。
休職中の給与が0円でも社会保険料が発生する理由や、退職後の保険料まで確認したい人は次の記事が参考になります。

退職後の継続給付では老齢年金と差額調整される
退職後も傷病手当金を受けられる「資格喪失後の継続給付」では扱いが変わります。
この期間に老齢厚生年金等の老齢・退職を事由とする公的年金を受けられる場合は原則として傷病手当金は支給されません。
ただし年金の日額が傷病手当金の日額より低い場合はその差額が傷病手当金として支給されます。
比較に使う年金日額は対象となる年金の年額を360で割って計算します。
対象となる老齢・退職年金給付が複数ある場合は該当する年金額を合計して確認します。
年金日額 = 老齢・退職を事由とする対象年金の年額 ÷ 360
年金日額 < 傷病手当金日額なら傷病手当金日額との差額が支給されます。
差額はいくらになる?2つの計算例
年金日額の方が低い場合
傷病手当金の日額が5,000円で、調整対象となる年金の年額が108万円とします。
- 年金日額:1,080,000円 ÷ 360 = 3,000円
- 傷病手当金日額:5,000円
- 差額:5,000円 - 3,000円 = 2,000円
この例では退職後の重複する対象日について、傷病手当金は1日2,000円の差額支給になります。
年金日額の方が高い場合
傷病手当金の日額が4,000円で、調整対象となる年金の年額が180万円とします。
- 年金日額:1,800,000円 ÷ 360 = 5,000円
- 傷病手当金日額:4,000円
この例では年金日額が傷病手当金日額以上なので、重複する対象日の傷病手当金は0円です。
実際の計算では自分が受けている年金の種類と年額、傷病手当金の日額、支給対象期間を保険者へ伝えて確認してください。
年金の振込額を6で割るなど、口座への入金額だけで自己計算しないことが重要です。
休職中に退職すると退職日を境に扱いが変わる
老齢年金を受けている人が在職中に傷病手当金を受け、そのまま退職するケースを考えると分かりやすくなります。
| 期間 | 健康保険の状態 | 老齢年金との傷病手当金調整 |
|---|---|---|
| 退職日まで | 会社の健康保険の被保険者 | なし |
| 資格喪失後 | 傷病手当金の継続給付 | あり。年金日額と比較 |
つまり同じ病気で休んでいても健康保険の資格を失った後は老齢年金との調整が始まることがあります。
年齢だけではなくどの日から健康保険の資格喪失後になったかを確認してください。
退職後も傷病手当金を受けるには継続給付の条件がある
退職した人全員が傷病手当金を続けて受けられるわけではありません。
協会けんぽは資格喪失後の継続給付について、主に次の条件を案内しています。
- 資格喪失日の前日までに継続して1年以上の健康保険の被保険者期間がある
- 資格喪失時に傷病手当金を受けているか、受けられる状態にある
- 退職日に出勤していない
退職日に出勤すると資格喪失後の継続給付を受けられません。
また資格喪失後に一度仕事ができる状態になり、その後また同じ傷病で働けなくなった場合も継続給付が再開する仕組みではありません。
公式:協会けんぽ「傷病手当金」
任意継続に入れば新しく傷病手当金を受けられるわけではない
退職後に健康保険の任意継続を選ぶ人もいます。
しかし任意継続へ加入したことを理由に、退職後に新しく発生した病気やけがについて傷病手当金を受けられるわけではありません。
任意継続中に傷病手当金を申請できるのは在職中から資格喪失後の継続給付の要件を満たしている場合です。
「任意継続に入ったから傷病手当金も継続できる」のではなく、傷病手当金側の継続給付要件を先に確認します。
年金が後からさかのぼって決まると返納が必要になることがある
注意したいのが、傷病手当金を受け取った後に老齢年金が過去へさかのぼって決定されたケースです。
退職後の資格喪失後継続給付と年金の対象期間が重なると、本来の差額を超えて受け取った傷病手当金を返納することがあります。
年金の決定通知や年金額の変更通知が届いたら、傷病手当金を支給した健康保険者へ連絡します。
対象期間と年金年額を照合したうえで返納額が計算されるため、自己判断で将来分の申請を止めたり任意の金額を返したりしないでください。
在職老齢年金は「年金側」の別の調整
働きながら老齢厚生年金を受けている人には給与や賞与などに応じて年金側が調整される「在職老齢年金」の仕組みがあります。
これは老齢年金を受けている在職者の傷病手当金を減らす仕組みとは別です。
そのため在職中の人は「傷病手当金が年金で減るか」と「働いているため年金側に調整があるか」を分けて確認します。
在職老齢年金の基準額は改定されることがあるため、具体的な最新基準は日本年金機構で確認してください。
公式:日本年金機構「60歳以降も引き続き勤めます。勤めていても年金は受けられますか」
退職後に働ける状態へ戻ったら失業保険との順番も変わる
傷病手当金は「療養のため働けない人」を対象とする給付です。
退職後に回復して働ける状態になれば、次は雇用保険の失業給付を検討する場面があります。
傷病手当金を受けている期間と失業保険を申請するタイミングの違いは次の記事で整理しています。

65歳以上で回復後に求職する人は一般の基本手当ではなく高年齢求職者給付金が対象になる場合があります。
年齢・雇用保険の加入期間・求職状態はこちらで確認できます。

申請前にそろえると確認しやすいもの
老齢年金と傷病手当金が重なる人は健康保険者へ問い合わせる前に次の情報をそろえると話が早くなります。
- 健康保険の資格喪失日
- 退職日の出勤有無
- 傷病手当金の日額と支給対象期間
- 受けている老齢・退職年金の種類
- 年金証書や年金額改定通知書などで分かる年額
- 年金の支給開始年月
- 年金が遡及決定された場合はその対象期間
傷病手当金の申請書でも資格喪失後の期間を申請する場合は老齢または退職を事由とする公的年金の受給状況を確認する欄があります。
年金の種類が調整対象か判断できない場合は受給している年金を省略せず保険者へ伝えて確認してください。
よくある質問
65歳以上で老齢年金を受けていても在職中なら傷病手当金は減りませんか?
老齢年金を受けていること自体を理由とする傷病手当金の調整は健康保険の資格がある在職中には行われません。
ただし給与などが支払われている場合は別の調整があります。
老齢厚生年金だけを年額に入れればよいですか?
老齢厚生年金だけを見て自己判断しないでください。
傷病手当金の申請では「老齢または退職を事由とする公的年金」の受給状況を確認します。
老齢基礎年金などを含め受けている年金の種類と年額を保険者へ伝え、調整対象となる年金額を確認します。
退職後に年金の方が少なければ両方受け取れますか?
退職後の資格喪失後継続給付では年金日額が傷病手当金日額より低ければ差額が傷病手当金として支給されます。
2つをそれぞれ満額で受ける仕組みではありません。
年金が後から遡って支給されたらどうなりますか?
傷病手当金との対象期間が重なれば、過払いとなった傷病手当金の返納が必要になる場合があります。
年金の決定通知が届いたら傷病手当金を支給した健康保険者へ連絡します。
退職日に出勤しても翌日から傷病手当金を受けられますか?
協会けんぽは退職日に出勤すると資格喪失後の傷病手当金の継続給付を受ける条件を満たさないと案内しています。
退職後も受給する予定なら退職日の扱いを事前に確認してください。
まとめ
傷病手当金と老齢年金は「在職中か退職後か」で扱いが違います。
健康保険の資格がある在職中は老齢年金を受けていること自体を理由に傷病手当金が減る調整はありません。
退職後に資格喪失後の傷病手当金を受ける場合は老齢・退職を事由とする公的年金との調整があります。
年金年額を360で割った日額が傷病手当金日額より低ければ差額が支給され、年金日額が同額以上なら重複する期間の傷病手当金は支給されません。
退職日をまたいで傷病手当金を受ける人は健康保険の資格喪失日、傷病手当金の日額、受給している年金の種類と年額をそろえて保険者へ確認してください。


